三嶺(徳島側)のシカ被害の状況
NPO法人 三嶺の自然を守る会
1 拡大するササの枯死
三嶺山域でのシカの食害は拡大の一途にある。私たちは1990年代後半ごろから三嶺の徳島県側でウラジロモミの皮剥ぎを目にしていた。しかし、一気に衰退するスズタケを確認したのは2006年の秋であった。2007年には名頃登山口(標高1200m)からダケモミの丘(標高1450m)にかけてはほぼ枯れ果て、名頃からのもう一つの登山道である三嶺林道終点(標高1300m)からダケモミの丘の間でも同様の状態となっていた。この変化は急激であった。
林床の植生は、標高1550m位からミヤマクマザサが主となる。2007年、被害はスズタケに止まらず標高1600m付近のミヤマクマザサへと拡大した。一方、三嶺北面の菅生登山道でも標高1700m付近の平坦部のササ原はすべて枯れ、被害はさらに上部へ拡がろうとしている。
以下に、比較写真とともに被害の状況を報告する。
2 被害の状況(同地点の比較写真)
標高1380m地点の三嶺林道終点登山口から10分ほどの登山道沿い。直径10~20cm
のリョウブが皮剥ぎにあい、枯れ、大量に倒れている。倒木の広さは25u。2008年8
月、撮影のためこの場所に足を踏み入れた時、大量のシカの糞と悪臭が漂っていた。
(2003年5月) (2008年8月)
標高1550m地点。名頃登山道には樹木の根が多く地表に現れている。写真は、特に広く根が張っている箇所で、長年、写真(左)の状態を保っていたが、この根の周辺のササが枯れ草本類が無くなり、山自体の保水力が衰えたためか根の周囲の土砂が流れ込み、2007年に根が宙に浮き始めた。今後、登山道の深掘れの拡大や急斜面での崩壊が心配される。
(2006年6月) (2008年4月)
標高1570m地点。2004年9月、大型の台風でダケモミの丘のウラジロモミが数多く倒れた。撮影のため腰までのスズタケをかき分けながら倒木に近づいたが、今はササが枯れてしまい難なく近づくことができる。
(2004年10月) (2008年4月)
標高1590m地点。2003年6月、三嶺へ案内したNHK徳島局のカメラマンはダケカンバが自生し深い森の雰囲気のあるこの場所を撮影した。しかし、2007年ごろからササは枯れ始め、皮剥ぎにあっていないダケカンバも多く枯れ始めている。今は、当時の深い森の雰囲気はなく殺伐とした景観に変わった。
(2003年6月) (2009年6月)
1600m地点の名頃登山道の標識。2005年ごろまで標識の周囲はササが繁っていたが、2008年には1700m付近までササ枯れが拡大している。
(2003年5月) (2008年10月)
3 山頂部へ迫るシカ被害と山腹崩壊の危ぐ
2008年ごろから標高1800m付近でもシカの糞を見かけるようになった。確実に山頂部への被害が迫っている。写真@は、山頂北側平坦部のササ原。もともと湿地状である所だがシカのヌタ場になりつつあるようだ。写真Aは、山頂から南東方面のササ原を望む。シカが移動するケモノ道が幾本も延びているのが目に入る。このままだと、三嶺のシンボルであり国の天然記念物の「三嶺・天狗塚のミヤマクマザサ及びコメツツジ群落」への被害が心配だ。
写真@(2009年6月) 写真A(2009年6月)
2005年9月の集中豪雨で、名頃登山道口からダケモミの丘までの間6ヶ所で崩壊が起き、土砂とともに多くの樹木が根こそぎ倒れた(写真B)。山自体の保水力が弱まっており、今後、台風などの豪雨でさらに大きく崩れ、山がズタズタに傷む恐れがある。当会は、危機的状況にある三嶺の巡視活動を今後も継続することにしている。
写真B(2009年6月)
(2009/6/20)